園長便り2025-15
2025.11.28
「主体的な選択」
園長:中村貫太郎
生後まもない赤ちゃんの感情は「快」と「不快」の二つだけだと言われています。不快なとき、赤ちゃん自身はどうすることもできないため、泣くことで周囲に知らせ、助けを求めようとします。眠っていた赤ちゃんが突然泣き出したとき、親がまず思い浮かべるのは「おむつかな?」「お腹が空いたのかな?」という二つの選択肢ではないでしょうか。こうした赤ちゃんの要求に応えていく過程で、赤ちゃんの中には親への愛着が形成されていくといわれています。関わりを繰り返す中で、少しずつ感情は細やかに分化し、選択肢も増えていくのだそうです。そう考えると、私たちの人生は小さな頃から「選択」の連続で成り立っていることに気づかされます。

近年、「子どもの主体性を育む保育」が重要視されるようになってきました。主体性というと、好きな遊びに自由に打ち込む姿を思い浮かべがちですが、それだけではありません。いくつかの選択肢の中から、子ども自身が選び取る経験も、主体性の育ちに大きな意味があります。ただし、大人が選択肢を示す際に気を付けたいことがあります。それは、子どもを進んでほしい方向へ誘導するための選択肢提示になってはならないということです。大人の意図が強く反映された選びやすさや言い回しは、子どもの「自分で選んだ」という実感を曇らせてしまいます。どの選択肢を選んでも尊重される、安全で対等な環境があってこそ、子どもは本当の意味で主体的な選択ができるのです。

教育とは、「こう育ってほしい」という未来の姿に向かって、子どもたちをそっと導いていく営みです。強引に引っ張り上げるのではなく、子ども自身の選択によって道を拓き、たどり着く体験を積んでほしいと願っています。これからも、子どもたちが自分で選び、考え、歩んでいく力を育む保育を大切にしていきたいと思います。